2010年10月18日

チリ鉱山奇跡の救出劇

チリのサンホセ鉱山の地下に閉じ込められた鉱山作業員33人が無事救出された。地下600mからの生還は奇跡に近い。
  

 銅はチリの基幹産業で、このサンホセ鉱山近辺にもおよそ3000もの鉱山があるという。そのほとんどが民営で、利潤追求のため、安全管理が不十分だとされている。このサンホセ鉱山では、過去に二度も落盤事故が発生し、2人が命を落としている。鉱山会社は、生産性を高めるため、地下に伸びる坑道のらせん状の直径を小さくして、急な傾斜にしたため、事故がおこりやすくなった。そんな中にあっての今回の落盤事故だった。
  

 作業員の救出にあたっては、最年長のリーダー役ルイス・ウルスアさん(54歳)が大きな役割を果たした。「絶対に希望を失うな!」気温40度、湿度100%の蒸し風呂状態の坑道で彼は仲間に叫び続けた。


 事故直後、閉じ込められた地下には、ほんのわずか食料しか残されていなかった。ウルアスさんは、3日分しかなかった食料を20日間もたせようとした。一人小さじ2杯分のマグロ缶詰と牛乳一口、ビスケット1枚を1日おきに配分する方法をとった。それから17日後に生存が確認され、地上から様々な物資が届くようになった。しかし、発見される2日前からは絶食状態だった
 

 また、ウルアスさんは、リーダーとして指示を出し、作業員に3交代勤務で仕事をさせた。働く人・休憩する人・眠る人に割り当て、みんなで励ましあい、パニックになる人を出さないようにした。
リーダーは有事の時にどう対処するかで真価が問われる。きちんと状況を把握し、的確な判断を出すリーダーがいたことが、また外に助けようとしている人がいたことが大きな安心感を生んだ。


 ウルアスさんは、幼い頃父を亡くし、6人兄弟の長男として父親代わりを勤め家族を支えてきた。そんな生い立ちがリーダーとしての資質を培ってきた。まさに彼は「生まれながらのリーダー」だったのだ。


 奇跡を実現させたは、掘削のプロの力によるものも大きかった。穴はまっすぐにドリルを掘り進めるのはかなり難しく、距離が伸びるにつれてらせん状を描いてしまう。議論の結果、ジェット水流を使ってドリルを導く方法を採用することにした。これにより引き上げでは驚くほどスムーズなカプセルの昇降が実現した。掘ることによりおよそ700トンもの土砂や岩石が地下に落ちた。それを地下にあったベルトコンベアーで運んだという。


 今回の崩落は幸運が重なって救出へとつながった。通常崩落は地下の下の方で起こる。それが今回は上の方で起こったことにより作業員は下のシェルターまで逃げ延びることができたのだ。 しかもシェルターにはわずかながら食糧や水が備えられていた。

 
 私はこれらの作業員から、「皆で助け合えば何とかなる」という強いメッセージをいただいた。地上で待っている家族がいる。救出に向け頑張っている仲間がいる。人間の絆が彼らを支えたのだろう。
救出開始から22時間半、最後の一人となったルイス・ウルスアさんが乗せられたカプセル、フェニックス(不死鳥)が地上に出てくると、拍手・歓声がわき起こった。


「こんなことは二度と起きてはならない」


「人生の中ではしばしば。自分が立ち止まって考え、理解する前に何かが起きてしまう。でも、その後、人生で何を変えていくべきなのかを考えるんだ。」誇らしげに彼は語った。

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