2010年07月02日

完全燃焼のサムライブルー

 それは“チームの団結”を象徴するシーンだった。パラグアイ戦で120分の死闘をくりひろげ、それでも決着がつかずにPK戦。日本チームの3人目のキッカー駒野選手の自信をもって振りぬいたボールは、クロスバーをかすめて外れた。天を仰ぎ、頭を抱えた駒野選手に駆け寄った仲間が肩を抱き慰めた。

 
 ゲームキャプテンの長谷川選手は、「だれが悪いというのではない。これまで決着をつけられなった自分たちのせい」だと言い切った。「120分間のプレーはすばらしかった。胸をはって日本へ帰ろう」主将のゴールキーパ川口選手から声をかけられ、駒野選手はロッカールームで号泣したという。
かってデビッド・ベッカムやロベルト・バッジオのようなスーパースターでさえPKを外したことがある。PK戦はサッカーでない。運がなかっただけだ。


 駒野選手は、元来PKが得意で、公式戦で外したことは一度たりとない。だから岡田監督も大切な3人目に起用したのだろう。岡田監督の起用に間違いはないし、駒野選手も恥じることはない。

 日本は、南米予選でアルゼンチンやブラジルに勝ったパラグアイに勝てなかったけれど、負けてはいなかった。この試合終始パラグアイに圧倒され、いつ点をとられてもおかしくないような状況だった。それがゴールキーパーの川島選手の好セーブや死力を尽くしてのディフェンスもあり、本当よくがんばった。


 駒野選手も4試合に出場し、最後の最後まで走り続け、チームのベスト16進出に大きく貢献した。日本チームの選手の90分間あたりのチーム走行距離は107.2mで、これはベスト16に進出したチームの中で6位にあたるという。岡田監督が言うように、「ハエがたかるように何度も何度もチャレンジしていく運動量」と「脈々と受け継がれた日本チームのサッカー魂」を発揮できた。
そして、その姿に“敗者の美学”を見た。


 それにしてもワールドカップ前は、国際試合で4戦全敗し、予選リーグ3戦全敗と予想する解説者も多くいた。代表チームにはすごいプレッシャーがあったに違いない。特に岡田監督のバッシングはすごかった。そんな中での予選快進撃。ひさしぶりに胸がスカーッとした。思うに、日本の選手は開き直ったのだろう。そして、前哨戦となる国際試合の敗戦が、逆にチームの団結力を一段と高めたに違いない。
敗戦の続く中、エースの本田選手は、「いいっすか」と言ってメンバーの部屋を回り、一人ひとりとひざを交えて話をしたという。


 サッカーはチーム戦である。どんなに優れたスーパースターがいても、それを活かす組織力が必要だ。組織力を高めるには、選手スタッフなどとの信頼関係が必要だ。今大会、前回の優勝チームのドイツ、準優勝チームのイングランドが相次いで破れた。この両チームは優秀なタレントを多く抱え、今大会でも優勝候補の一角に挙げられていた。だが、予選で敗退した。これはチームワークが備わっていなかったからではないか。

 
 かって南米のある国では、PKをはずした選手が自国に帰ると射殺されたこともあった。駒野選手も「あの時は、もう日本に帰ることはできない」と思ったと言う。しかし、メンバーに励まされ前を向いて帰ってきた。そして、それを温かく迎えたサッカーフアンがいた。

 日本チームは、国を背負っている責任や誇りでなく,“闘志”をむき出しにして戦った。これこそ“大和魂”である。大会期間中にチームも選手も成長し、試合を重ねながら、組織力と守備を日本の形として作り上げていった。特に控え選手との一体感はすばらしかった。そして、新しい歴史を築いた


 関西空港での記者会見では、重圧から解き放たれた岡田監督の笑顔が印象的だった。選手インタビューでは、“一発芸”も飛び出し、チームの結束力を象徴するような場面もあり、それはまるでWBCの日本チームを思わせるようだった。
この結束力がある限り、日本チームの未来は明るいと確信した。


 感動をありがとう。
 サムライ日本。

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