2009年06月30日

あっぱれ!高校生プロゴルファー 石川遼

 勝利の瞬間、石川遼は天を仰いだ。天に突き出したコブシには若い力と自信が満ち満ちていた。「今までの勝利の中で一番いい内容だった」と答える彼には、涙はなく、実にさわやかな勝利だった。そして、彼がまたステップアップした勝利でもあった。
 

 それにしてもハラハラさせられた。前半を終えて2位とは5打差。楽勝かと思われた12番ホールpar4、得意のドライバーがぶれて2連続のOB、9打も打ってしまった。プロといえども17歳の彼にすれば、気持ちはこれ以上なく落ち込んだことだろう。
ゴルフに少なからず自信のある私は、近年par4で9打を打ったことはない。プロのトーナメントでもpar4で9つも打つものは、まずいないだろう。二度のOBの後の3度目のテイーショット、ここはスプーンに変えて安全策を選ぶのが普通。しかし、彼はドライバーを振り続けた。

 二度のOBで彼は頭の中が真っ白になったという。一度崩れるとどんどんだめになっていくのがゴルフだ。しかし、その日の彼は違っていた。周囲のどよめきをよそに、本人は冷静そのものだった。それを切り替えさせたのがギャラリーの声援の大きさだという。
「ドンマイ」「ドンマイ」というギャラリーの言葉が彼の気持ちをリセットさせた。『まだ負けたわけではない』というポジティブな考えが攻めの遼に転じることになった。そして伝説となるであろう16番パー5、残り30ヤード、第3打。グリーン右ラフから放たれたアプローチ、やや強めであったが、若さの勢いそのものにボールは、ピンを直撃カップに吸い込まれた。チップインイーグルである。凄い!としか言いようがない。
 

 思えば彼の勝利には、伝説がつきものだ。プロになるきっかけとなった07年マンシングウエアKSBカップ最終日、グリーン上の旗が見えないあごの高いバンカーからチップインバーデイー、そして、昨年のABCチャンピオンシップでの池の中からのウォーターショット。そして今回のチップインイーグル、彼は幸運の星の元に生まれてきたのかもしれない。
 

 しかし、ただ単に運だけではなく、これは練習量のすごさに裏打ちされた結果なのだ。毎朝、「道場」と言われる専用練習場でバンカー・パターの練習、試合から帰ってもその日の反省を踏まえての打ち込みと練習量に関してもツアープロの中でもピカ一だと言われている。彼のひたむきさが幸運を呼び込んでいるような気がする。
 

 彼のよさは、気の強さ。読売カントリークラブは左右が狭く、距離もそんなに長くない山岳コース。私も2〜3度プレーしたことがあるが、まさに難コースだ。他の選手が3番ウッドを使い無難にコースセンターを狙うのに対し、彼は得意のドライバーを駆使して距離でアドバンテージをつかもうとした。これが成功した。また、彼は非常にさわやかだ。勝っても奢ることなく、謙虚そのものである。そして何より他人への感謝の気持ちを大切にしているところがいい。 


 インタビューの受け答えにも頭の回転のよさと人間的魅力を感じさせるものがある。勉強も優秀で在籍する高校でも常に学年5番以内にいるという。
これは両親の育て方の賜物だと思う。


 ともあれ、マスターズの主催者推薦による出場でなく、実力で全英オープン出場を勝ち取ったおそるべき17歳高校生。彼の進化はまだまだ続く。ゴルフの発祥地イギリスで「日本男児ここにあり」を世界に示してもらいたいものだ

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